蝋梅に綺羅の海光とどきけり
蝋梅に綺羅の海光とどきけり みのる
今から三十年ほどまえ四六時中俳句脳だったころの話である。
週末の朝、いつものように須磨浦公園へ吟行に出かけた。その日は温かい玉日和で須磨の海は眩しい日差しを弾きながら穏やかに縮緬波を畳んでいた。そろそろ観光ホテルの庭の蝋梅が咲いているころだと足を運ぶと既に先客があった。その人はじっと蝋梅と対峙して微動だに身じろがない。
それが恩師の紫峡先生だとすぐに気づいたけれど真剣な眼差しに近寄りがたいものを直感したので声をかけずにそっとその場を離れた。その時に見た先生のお姿はいまも瞼の裏に鮮烈に焼きついている。
先生はキリスト教の牧師のご子息。訳あって牧師の道は選ばれなかったがその信仰はゆるぎがない。
対象物に心を通わせていると神様からのメッセージのように語りかけてくるのだよ。
紫峡師から何度も教えられた言葉である。
蝋梅を睨んで動かない先生の真摯なお姿を遠目に見たとき、思わず武者震いしそうなインスピレーションを感じた。衝撃のその日以降、それがわたしの俳句スタイルとなった。
蝋梅は、満開のときも綺麗だけれど、ころころとこぼれ落ちそうな蕾の玉がたくさんついて、その中の幾つかが日に透けてほころびはじめている…そんな雰囲気のタイミングがいちばん好きです。
そんなこんなで、ほっこりと緩みはじめた蝋梅をじっと観察していると何だか恩師の温顔に見えてくるのです。
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